はじめに
「5%で検定せよ、と言われたのに、棄却域の確率が5%にならない……」
例えば、成功確率0.3とされる試行を12回観測して、成功回数が「X≥7 なら棄却」と決めたとします。計算すると棄却の確率は3.9%です。「X≥6 なら棄却」にすると11.8%です。どちらも5%ではありません。では、ちょうど5%の検定は作れないのでしょうか?
実は、作れます。検定を「棄却するかしないか」ではなく、「どれくらいの確率で棄却するか」を返す関数だと考えればよいのです。そして、そう定義し直すと、第一種の過誤も第二種の過誤も、1本の関数から読み取れるようになります。
そこで登場するのが、今回の主役 検出力関数 です。検出力(検定力)を θ の関数として見たもので、そのグラフが 検出力曲線 です。
前回の記事では、信頼区間を裏返すと検定になることを学びました。今回の記事では、検定を数学の言葉で定義し直し、検出力曲線を式から導いて、p値が確率変数としてどう振る舞うかを証明つきで解説します。
検定を関数として定義する
はじめに、検定の定義を数学の形に整えます。
準1級で学んだ枠組みを、短く思い出しましょう。仮説 は母数についての主張で、母数空間を Θ0 と Θ1 に分けて H0:θ∈Θ0 対 H1:θ∈Θ1 と書きます。データから作る 検定統計量 T の値のうち、H0 を棄却する範囲が 棄却域 R です。
1級では、これを1つの関数にまとめます。データ x に、H0 を棄却する確率を対応させる関数 φ(x) を 検定関数 と呼びます。
φ:X→[0,1]
φ(x)=1 なら必ず棄却、φ(x)=0 なら棄却しません。棄却域 R による普通の検定は、R の上で1、外で0という特別な場合です。0と1の間の値をとるものを 確率化検定 と呼びます。
例えるなら、裁判の判決です。ふつうの検定は「有罪か無罪か」を決めます。確率化検定は、判断が境目の事件だけ、くじを引いて決めます。実務では使いませんが、定理の証明では欠かせない道具です。
検定関数のよさは、次の1本の関数にすべて集約されます。
π(θ)=Eθ[φ(X)]
π(θ) は、真の値が θ のときに棄却する確率で、検出力関数 と呼びます。β は第二種の過誤の確率に使うので、ここでは π と書きます。
【検出力関数から読めるもの】
- θ∈Θ0 のとき: π(θ) が 第一種の過誤 の確率
- θ∈Θ1 のとき: 1−π(θ) が 第二種の過誤 の確率
- θ∈Θ1 のとき: π(θ) が 検出力
ここがポイントです。第一種の過誤の確率も第二種の過誤の確率も、定数ではなく θ の関数です。α や β という1つの数は、その関数の特定の点を読んだものです。
H0 の上での最大の値を、検定の大きさと呼びます。
大きさ=θ∈Θ0supπ(θ)
大きさが α 以下の検定を、有意水準 α の検定と呼びます。「大きさ」は検定が実際に持つ値、「有意水準」はこちらが決める上限です。冒頭の「X≥7」は、有意水準5%の検定で、大きさは3.9%です。
なぜ H0 の側だけに上限を置くのでしょうか? 検定の原理は、確率的な背理法だからです。「H0 が正しいと仮定すると、めったに起きないことが起きた。だから仮定を疑う」と考えます。裁判の「疑わしきは罰せず」と同じで、H0 の無罪を守る確率を先に固定し、そのうえで有罪を見抜く力を競います。
例題:確率化検定を作る
X∼B(12,p) を観測し、H0:p=0.3 対 H1:p>0.3 を、大きさがちょうど0.05の検定で調べたい。X の大きい値から棄却する検定関数を構成せよ。また、p=0.6 での検出力を求めよ。ただし、p=0.3 のとき P(X≥7)=0.0386、P(X=6)=0.0792、p=0.6 のとき P(X≥7)=0.6652、P(X=6)=0.1766 である。
【解答】
P0.3(X≥7)=0.0386<0.05<P0.3(X≥6)=0.1178 なので、X≥7 では必ず棄却し、X=6 では確率 γ で棄却し、X≤5 では棄却しない検定を考える。
φ(x)=⎩⎨⎧1γ0(x≥7)(x=6)(x≤5)
大きさの条件 E0.3[φ(X)]=0.0386+0.0792γ=0.05 より、γ=0.0114÷0.0792=0.144 である。
検出力は π(0.6)=0.6652+0.144×0.1766=0.691 である。
確率化により、検出力が0.665から0.691に上がりました。余っていた予算を、境目の値に回したぶんです。
試験のポイント:「有意水準 α の検定」は大きさが α 以下の検定です。第一種の過誤の確率は、複合仮説では θ の関数になるので、sup をとります。
以上が、検定を関数として定義する話についての解説です。
検出力曲線を式から導く
次に、検出力関数を実際に計算して、曲線の性質を調べます。
理想の検定の検出力曲線は、Θ0 の上で0、Θ1 の上で1の階段です。どんな病気も見逃さず、健康な人を決して引っかけない健康診断のようなものです。現実の曲線は、この階段をなめらかにしたS字になります。よい検定とは、階段に近い検定です。
1つずつ見ていきましょう。
1. 片側検定
正規分布 N(μ,σ2)(σ 既知)で、H0:μ≤μ0 対 H1:μ>μ0 を考えます。棄却域は n(Xˉ−μ0)/σ>zα です。δ=n(μ−μ0)/σ とおくと、n(Xˉ−μ)/σ=Z が標準正規分布に従うので、次のように計算できます。
π(μ)=P(Z+δ>zα)=Φ(δ−zα)
Φ は標準正規分布の分布関数です。π は μ の増加関数です。したがって、μ≤μ0 の中で最大になるのは境目 μ=μ0 で、大きさは π(μ0)=Φ(−zα)=α です。
これが、複合仮説 μ≤μ0 の検定を、単純仮説 μ=μ0 の棄却域で作ってよい理由です。検出力関数の単調性が根拠なのです。
同じ議論は二項分布でも成り立ちます。ここでは証明の見本として、微分を使わない方法を紹介します。独立な一様乱数 U1,…,Un を用意して、Xp=#{i:Ui≤p} とします。Xp∼B(n,p) です。p<p′ なら、すべての結果について Xp≤Xp′ が成り立ちます。したがって、P(Xp≥k)≤P(Xp′≥k) です。同じ乱数の上に2つの確率変数を並べて比べるこの手法を、カップリングと呼びます。
2. 両側検定と不偏性
次は H0:μ=μ0 対 H1:μ=μ0 です。棄却域は ∣Z0∣>zα/2 で、Z0=n(Xˉ−μ0)/σ です。z=zα/2 と書くと、検出力関数は次の形になります。
π(δ)=Φ(δ−z)+Φ(−δ−z)
δ で微分すると、ϕ を標準正規分布の密度として、π′(δ)=ϕ(δ−z)−ϕ(δ+z) です。δ>0 なら ∣δ−z∣<δ+z なので、π′(δ)>0 です。π は偶関数なので、δ=0 で最小値 α をとる、谷の形になります。
具体的に見てみましょう。α=0.05 の数値は次のとおりです。
| δ | −1 | 0 | 1 | 2 | 3 |
|---|
| 両側検定 | 0.170 | 0.050 | 0.170 | 0.516 | 0.851 |
| 右片側検定 | 0.004 | 0.050 | 0.259 | 0.639 | 0.912 |
表の見方を説明します。δ>0 の側では、右片側検定のほうが強力です。予算の全部を右に張っているからです。その代わり、δ=−1 では検出力が0.004と、α より小さくなります。
有意水準 α の検定のうち、Θ1 のどの点でも π(θ)≥α を満たすものを、不偏検定 と呼びます。何もデータを見ずに確率 α のくじで棄却するだけでも、検出力は α です。不偏性は「くじ引きには負けない」という、最低限の品質です。右片側検定は、両側の対立仮説に対しては不偏ではありません。
また、Θ1 の各点で n→∞ のとき検出力が1に近づく検定を、一致検定と呼びます。固定した μ=μ0 では ∣δ∣=n∣μ−μ0∣/σ→∞ なので、上の式より π→1 です。
例題:検出力関数を閉じた形で求める
X1,…,X6 は U(0,θ) に独立に従う。H0:θ≤1 対 H1:θ>1 を、棄却域 X(6)>c で検定する。(1) 検出力関数を求めよ。(2) 大きさが0.05となる c(0<c<1)を求めよ。(3) θ=1.2 の検出力を求めよ。
【解答】
(1) X(6)≤c は全部の Xi が c 以下ということなので、θ>c のとき Pθ(X(6)≤c)=(c/θ)6 である。よって、次の式を得る。
π(θ)={01−(c/θ)6(θ≤c)(θ>c)
(2) π は θ の非減少関数なので、Θ0 での最大は θ=1 のときの 1−c6 である。1−c6=0.05 より、c=0.951/6=0.9915 である。
(3) π(1.2)=1−0.95÷1.26=1−0.318=0.682 である。
正規分布のS字と違って、θ≤c で検出力がぴったり0になるのが特徴です。
以上が、検出力曲線の導出についての説明です。
p値を確率変数として見る
最後に、p値の数学的な性質を見ていきましょう。
p値 は、準1級では「H0 のもとで、観測値かそれより極端な値が出る確率」と学びました。1級では、次の定義も押さえます。有意水準ごとの棄却域 Rα が、α を小さくすると縮むように並んでいるとき、p値は次の値です。
p(x)=inf{α:x∈Rα}
言葉で言うと、「このデータを棄却できる、いちばん厳しい有意水準」です。T が大きいほど棄却する検定で、H0 が単純仮説なら、t を観測したときのp値は PH0(T≥t) と一致します。
そして、データから計算するので、p値それ自体が確率変数 です。例えるなら、学年順位です。「帰無仮説の世界の生徒全員の中で、上から何%の位置にいるか」がp値です。順位なので、全員を並べれば0%から100%まで均等に散らばります。これを定理にしたものが次の主張です。
定理1:H0 が単純仮説で、T の分布関数 F が連続かつ狭義単調増加なら、H0 のもとで p(X)∼U(0,1) である。
証明です。p(X)=1−F(T) です。前回の確率積分変換より F(T)∼U(0,1) なので、1−F(T) も U(0,1) に従います。
定理2:離散型の場合や複合仮説の場合でも、θ∈Θ0 なら、0<u<1 に対して Pθ(p(X)≤u)≤u である。
証明です。複合仮説のp値は p(x)=supθ∈Θ0Pθ(T≥t) と定めます。固定した θ∈Θ0 について G(t)=Pθ(T≥t) とおくと、p(X)≥G(T) です。よって、Pθ(p(X)≤u)≤Pθ(G(T)≤u) です。G(t)≤u を満たす最小の t を t∗ とすると、G は単調なので G(T)≤u は T≥t∗ と同じで、その確率は G(t∗)≤u です。
ここがポイントです。定理2の不等式こそ、「p≤α なら棄却」という判定で第一種の過誤が α 以下に収まる理由です。
具体的に見てみましょう。X∼B(4,0.5) を H0 として、右片側のp値を計算します。
| x | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
|---|
| 確率 | 0.0625 | 0.2500 | 0.3750 | 0.2500 | 0.0625 |
| p値 | 1 | 0.9375 | 0.6875 | 0.3125 | 0.0625 |
P(p≤0.1)=P(X=4)=0.0625 で、0.1以下です。P(p≤0.5)=0.3125 も0.5以下です。離散型のp値は一様分布より大きい側に寄ります。だから検定は保守的になります。
せっかくなので、H1 のもとでのp値も見てみましょう。p≤u は有意水準 u で棄却することと同じなので、Pθ(p≤u) は有意水準 u の検出力そのものです。右片側の z 検定なら、次の式です。
Pθ(p≤u)=Φ(δ−zu)
δ=2 のとき、P(p≤0.05)=0.639、P(p≤0.01)=0.372 です。H0 のもとでは平らだったp値の分布が、H1 のもとでは0の近くに集まります。検出力曲線とp値は、同じものを別の角度から見ていたわけです。
例題:p値の統合
3つの独立な研究で、同じ単純仮説 H0 を連続型の統計量で検定すると、p値は0.08、0.10、0.20だった。(1) H0 のもとで −2logp∼χ2(2) を示せ。(2) W=−2∑i=13logpi の H0 のもとでの分布を求めよ。(3) 上の結果から、W が大きいとき棄却する検定を、有意水準5%で行え。χ0.052(6)=12.59 とする。
【解答】
(1) 定理1より p∼U(0,1) である。w>0 に対して、P(−2logp>w)=P(p<e−w/2)=e−w/2 である。これは自由度2のカイ二乗分布の生存関数である。
(2) 3つのp値は独立なので、再生性より W∼χ2(6) である。
(3) W=−2(log0.08+log0.10+log0.20)=12.88 である。12.88>12.59 なので、H0 を棄却する。
1つずつでは5%で有意でない結果が、3つ合わせると有意になりました。弱い証拠も、独立に積み重なれば強い証拠になるのです。この統合法をフィッシャーの方法と呼びます。
試験のポイント:H0 のもとで p∼U(0,1) は、連続型かつ単純仮説のときの結論です。論述では、この条件を書いたうえで確率積分変換に帰着させます。
以上が、p値の性質についての解説です。
細かい部分が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「検定は関数で、よさは検出力関数で測る」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は検定を検定関数として定義し直し、検出力関数とp値の性質を導きました。2種類の過誤も、有意水準も、検出力も、すべて π(θ) という1本の曲線の読み方の違いです。p値も、この曲線と裏表の関係にあります。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 検定はデータを棄却確率に写す関数。確率化検定を使えば、大きさをちょうど α にできる。
- 検出力関数 π(θ) は、Θ0 で第一種の過誤の確率、Θ1 で検出力を表す。
- 片側検定の大きさは、検出力関数の単調性により、境目の θ0 で決まる。
- 両側 z 検定は不偏で、右片側検定は両側の対立仮説に対して不偏ではない。
- p値は確率変数。連続型の単純仮説では U(0,1) に従い、一般には P(p≤u)≤u が成り立つ。
キーワードのおさらい
- 仮説: 母数についての主張。Θ0 と Θ1 で表す
- 検定統計量: 判断に使う、データから計算する量
- 棄却域: H0 を棄却するデータの範囲
- 有意水準: 検定の大きさの上限として決める値
- 第一種の過誤: H0 が真なのに棄却する誤り
- 第二種の過誤: H1 が真なのに棄却しない誤り
- 検出力(検定力): H1 が真のときに棄却する確率
- 検出力曲線: 検出力を θ の関数として描いた曲線
- p値: そのデータを棄却できる最小の有意水準
- 検定関数: データに棄却する確率を対応させる関数
さて、検定のよさを測る物差しが手に入りました。すると、次の問いが自然に浮かびます。同じ大きさの検定の中で、検出力がいちばん高い検定はどれでしょうか? そして、それを式で作ることはできるのでしょうか?
次回は、「ネイマン・ピアソンの基本定理」から尤度比検定、ワルド型検定、スコア型検定までを導く「検定法の導出」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。