準1級-11 応用統計の手法
点推定の性質
- バイアス
- バイアス・バリアンス分解
- 不偏性
- 一致性
- 十分性
- 有効性
- 推定量の相対効率
- ガウス・マルコフの定理
- クラーメル・ラオの不等式
はじめに
「分散の分母は、 と のどっちが正しいの?」
前回の記事で、正規分布の分散の最尤推定量は分母が でした。一方で、2級で使った不偏分散は分母が です。同じデータから、2つの答えが出てきました。いったい、どちらを使うべきなのでしょうか?
体重計を選ぶ場面を想像してください。いつも1kgだけ重く出るけれど、結果は毎回そろう体重計と、平均すると正しいけれど、乗るたびに2kgも上下する体重計です。どちらがよいかは、「よさ」をどう測るかで変わりますよね。
実は、推定量のよさにも、1つではなく複数の基準があります。
そこで登場するのが、今回の主役 バイアス・バリアンス分解 と クラーメル・ラオの不等式 です。前者は誤差を2種類に分ける式で、後者は分散の限界を教える式です。
今回の記事では、不偏性、一致性、十分性、有効性という4つの基準と、線形模型の最良性を保証するガウス・マルコフの定理について解説します。
バイアスと不偏性:誤差を2つに分ける
はじめに、推定量の誤差の分け方について解説します。
推定量 の期待値と真の値の差を、バイアス(偏り)と呼びます。
すべての でバイアスが0であることを、不偏性 と言います。冒頭の「いつも1kg重い体重計」は、バイアスが1kgです。一方で「乗るたびに上下する体重計」は、バイアスは0ですが分散が大きいのです。
この2つをまとめて評価する量が、平均二乗誤差(MSE)です。 を、 と に分けて2乗すると、交差項の期待値は0になります。したがって、次の バイアス・バリアンス分解 が成り立ちます。
言葉で言うと、「誤差の大きさ = ばらつき + 偏りの2乗」です。
冒頭の疑問を、この式で解いてみましょう。正規母集団で、偏差平方和を とします。 なので、、 です。、 で、分母を変えた3つの推定量を比べます。
| 推定量 | バイアス | 分散 | MSE |
|---|---|---|---|
| (不偏分散) | 0 | 0.2222 | 0.2222 |
| (最尤推定量) | −0.1 | 0.18 | 0.19 |
| −0.1818 | 0.1488 | 0.1818 |
意外な結果です。MSEで比べると、不偏分散は3つの中で最も悪く、分母を にしたものが最小です。少しの偏りを受け入れて、ばらつきを大きく減らしたほうが得だったのです。
つまり、「 と のどちらが正しいか」に唯一の答えはありません。不偏性を選ぶなら 、尤度を選ぶなら です。t分布を使う検定や区間推定の公式は で組まれているので、その場面では不偏分散を使います。試験では、問題文がどちらの分母で定義しているかを確かめましょう。
試験のポイント:不偏性は「平均して当たる」という性質で、MSEが最小という意味ではありません。
以上が、バイアスと不偏性についての解説です。
一致性:データが増えれば真の値に近づく
次に、標本が大きいときの基準について説明します。
一致性 とは、 のとき、推定量が真の値に確率収束する性質です。任意の について、次が成り立つことを言います。
味見に例えると、鍋から取るスプーンの量を増やすほど、鍋全体の味が正確に分かる、ということです。
確かめるときは、次の十分条件が便利です。マルコフの不等式から なので、 なら一致性をもちます。つまり、バイアスと分散の両方が0に近づけばよいのです。
大切なのは、不偏性と一致性が別の性質だということです。
【不偏性と一致性の組み合わせ】
- 不偏で一致: 。 で、
- 偏りがあるが一致: 。バイアス も分散も0に近づく
- 不偏だが一致しない: 。データが増えても1個目しか見ないので、分散は のまま
せっかくなので、別の例も見てみましょう。 の最大値 は、 で偏りがあります。それでも、 なので、一致性をもちます。
以上が、一致性についての説明です。
十分性:情報を捨てていないか
続いて、前回までに学んだ十分統計量が、推定量の改良にどう効くのかを解説します。
推定量が十分統計量の関数であることを、十分性 と言います。十分統計量の外には の情報がないので、十分統計量以外の部分に頼る推定量は、ムダなノイズを抱えていることになります。これを式にしたのが、ラオ・ブラックウェルの定理です。
は不偏推定量、 は十分統計量です。 が十分なので、 は を含まない統計量になります。分散が減る理由は、全分散の公式 です。第2項が、捨てられるノイズにあたります。
要するに、「十分統計量で条件づけて平均をとれば、推定量は悪くならない」のです。下書きを清書すると余計な線が消えるイメージです。
具体的に見てみましょう。ベルヌーイ試行で は の不偏推定量ですが、分散は と大きいです。 で条件づけると、 のとき1回目が当たりの確率は です。
分散は まで下がりました。標本比率が、自動的に出てきたわけです。
別の例として、 の不偏推定量を2つ比べましょう。モーメント法の の分散は です。十分統計量にもとづく の分散は です。 なら、 と で、4倍も違います。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 十分統計量が完備という性質ももつと、それにもとづく不偏推定量は、すべての不偏推定量の中で分散が最小になります。これを一様最小分散不偏推定量(UMVU)と呼びます。
以上が、十分性についての解説です。
有効性:クラーメル・ラオの不等式
次に、分散の限界について説明します。
不偏推定量の分散は、どこまで小さくできるのでしょうか? 陸上の記録に人間の限界があるように、推定量の分散にも越えられない下限があります。それが クラーメル・ラオの不等式 です。
は不偏推定量、 は1個の観測がもつ フィッシャー情報量 です。情報量が多いほど、下限は小さくなります。詳しくは次回の記事で扱います。
導出の要点は、次の3つです。
【導出の3ステップ】
- スコア関数を とすると、、
- の両辺を で微分すると、
- コーシー・シュワルツの不等式から、
3つ目を割れば、不等式が得られます。
分散がこの下限に一致する不偏推定量を、有効推定量 と呼びます。この性質が 有効性 です。下限と分散の比(下限 ÷ 分散)を効率と呼び、有効推定量の効率は1です。
例えば、ポアソン分布では で、スコアは です。 なので、下限は です。 なので、 は有効推定量です。、 なら、下限は0.08です。
ただし、いつも下限に届くとは限りません。正規分布の の下限は ですが、 で、わずかに届きません。効率は です。 のように分布の範囲が に依存すると、微分と積分の交換ができず、不等式そのものが使えません。
2つの推定量を比べる指標が、推定量の相対効率 です。不偏推定量 と について、次のように定めます。
これが1より小さいなら、 のほうがばらつきが大きいという意味です。
例えば、正規母集団では、標本中央値の分散は、 が大きいとき約 です。平均に対する中央値の相対効率は です。これは、中央値で100個使うのと、平均で64個使うのが同じ精度だということです。ただし、これは正規分布の場合の話です。裾の厚い分布では、中央値のほうが有利になることもあります。
例題:相対効率を求める
は独立で、期待値 、分散 です。 に対する の相対効率を求めましょう。
【解き方】
- 不偏性を確かめる:
- 分散: 、
- 比をとる:
答えは約0.857です。重みを均等にしない分だけ、損をしています。
試験のポイント:クラーメル・ラオの下限は「不偏推定量」についての限界です。バイアスのある推定量は、下限より小さい分散をもつことがあります。
以上が、有効性についての説明です。
ガウス・マルコフの定理:線形模型の最良性
最後に、線形模型についての最良性を見ていきましょう。
クラーメル・ラオの不等式を使うには分布の形が必要でした。ところが、線形模型では、分布を決めなくても言えることがあります。それが ガウス・マルコフの定理 です。
この仮定のもとで、最小二乗推定量 は、線形不偏推定量の中で分散が最小です。これを 最良線形不偏推定量(BLUE)と呼びます。誤差の仮定は「平均0、等分散、無相関」の3つだけで、正規分布は要りません。
「線形」は、推定量が の形をしていることです。大会の出場資格のようなものだと思ってください。「線形」かつ「不偏」という資格をもつ選手の中で、最小二乗法が優勝する、という定理です。
証明の要点も確認しましょう。線形不偏推定量 の不偏性から、 が必要です。 と書くと、 となります。分散を計算すると、交差項が消えて次のようになります。
は半正定値なので、最小二乗推定量()より分散が小さくなることはありません。
具体的に見てみましょう。 の単回帰で、傾きの推定量を2つ比べます。1つは最小二乗法で、分散は です。もう1つは、両端の2点を結ぶ です。これも線形で不偏ですが、分散は で、最小二乗法に負けます。
逆に、定理の外には、最小二乗法を超えるものがあります。分散が等しくないときは、重みをつける一般化最小二乗法のほうが有利です。バイアスを認めれば、MSEで勝つ推定量もあります。冒頭の分散の例と同じ話で、これはのちの記事の正則化で活躍します。
以上が、ガウス・マルコフの定理についての解説です。
細かい証明を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「誤差はばらつきと偏りに分かれる」「不偏推定量の分散には限界がある」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、推定量のよさを測る基準について紹介しました。不偏性、一致性、十分性、有効性はそれぞれ別の角度から推定量を見ています。「いつも1kg重い体重計」と「上下する体重計」の優劣が基準で変わるように、よい推定量も、何を重視するかで変わります。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- MSEは分散とバイアスの2乗の和に分かれる。不偏分散はMSE最小ではない。
- 不偏性は平均して当たること、一致性はデータが増えれば当たること。この2つは別の性質。
- 十分統計量で条件づけると、不偏推定量の分散は減る(ラオ・ブラックウェルの定理)。
- 不偏推定量の分散の下限は で、これに届く推定量が有効推定量。
- 誤差が平均0・等分散・無相関なら、最小二乗推定量は線形不偏推定量の中で最良。
キーワードのおさらい
- バイアス: 推定量の期待値と真の値の差
- バイアス・バリアンス分解: MSEが分散とバイアスの2乗の和になるという式
- 不偏性: 推定量の期待値が、どの母数の値でも真の値に一致する性質
- 一致性: 標本が大きくなると、推定量が真の値に確率収束する性質
- 十分性: 推定量が十分統計量の関数である性質
- 有効性: 不偏推定量の分散がクラーメル・ラオの下限に一致する性質
- 推定量の相対効率: 2つの不偏推定量の分散の比
- クラーメル・ラオの不等式: 不偏推定量の分散の下限を与える不等式
- ガウス・マルコフの定理: 最小二乗推定量が最良線形不偏推定量であるという定理
さて、クラーメル・ラオの下限にはフィッシャー情報量が登場しました。この量は、何を表しているのでしょうか? そして、小さな標本では届かなかった下限に、標本が大きくなると届くのでしょうか?
次回は、「フィッシャー情報量」と「最尤推定量の漸近正規性」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。