準1級-18 応用統計の手法
ノンパラメトリック法
- ウィルコクソン検定
- 並べ替え検定
- 符号付き順位検定
- クラスカル・ウォリス検定
- 順位相関係数
はじめに
「データが6個しかない。正規分布に従うかなんて、確かめようがない……」
新しい栽培法の効果を調べるために、鉢を3つずつ育てたとします。 検定を使いたいのですが、 検定は母集団の正規性を前提にしています。データが6個では、その前提を確かめられません。しかも、1つだけ飛び抜けた値が混じると、平均も分散も大きく動いてしまいます。
実は、分布の形を一切仮定しなくても、検定は作れます。カギになるのは、「値そのものを使わず、順番だけを使う」という発想です。徒競走の着順なら、1位の人がどれだけ速くても「1位」は「1位」ですよね。順位にしてしまえば、もとの分布が何であっても、計算の土台は同じになります。
そこで登場するのが、今回の主役 ノンパラメトリック法 です。母集団の分布の形を特定のパラメータで決めつけない方法の総称です。
前回の記事では、二項分布やポアソン分布、尤度比検定を学びました。どれも分布の形が前提でした。今回の記事では、並べ替え検定、ウィルコクソン検定、符号付き順位検定、クラスカル・ウォリス検定、順位相関係数 について解説します。
並べ替え検定:ラベルをシャッフルする
はじめに、すべての土台になる並べ替え検定について解説します。
結論を一言で言うと、データはそのままで、群のラベルだけをシャッフルして、差の分布を自分で作る 方法です。
が「2群の分布は同じ」なら、どのデータにどの群のラベルが付いていても、たまたまの結果にすぎません。トランプの札を配り直すようなものです。だから、ラベルの付け方を全部試せば、「 のもとでの統計量の分布」が手に入ります。分布表はいりません。
具体的に見てみましょう。新しい栽培法の鉢Aと、これまでの栽培法の鉢Bの収穫量が、次のようでした。
- A: 7, 9, 12
- B: 3, 4, 8
統計量を、Aの合計にします。観測値は28です。6個の中から3個を選んでAと呼ぶ選び方は、全部で次の数だけあります。
のもとでは、20通りがどれも等しく起こります。Aの合計が28以上になるのは、 の28と、 の29の2通りです。
有意水準5%では棄却できません。ここで注意しましょう。3個ずつの比較では、最も極端な結果でも片側のp値は です。標本が小さいと、有意水準を達成できる余地そのものが小さいのです。
並べ替え検定の長所は、正規性を一切使わないことです。統計量も平均の差、中央値の差など、好きなものを選べます。
一方で、弱点もあります。データが増えると、組合せの数が爆発します。10個ずつなら 通りです。全部を調べる代わりに、ランダムに数千回シャッフルする近似もよく使われます。
試験のポイント:並べ替え検定のp値は「観測値以上に極端なラベルの付け方の数 ÷ すべての付け方の数」です。組合せの数を数えられるようにします。
以上が、並べ替え検定についての解説です。
ウィルコクソン検定:順位の和で比べる
次に、2群を比べるウィルコクソン検定について説明します。
並べ替え検定を、値ではなく順位に対して行うのが ウィルコクソン検定 です。正式にはウィルコクソンの順位和検定と呼びます。
順位にする利点は2つあります。外れ値に強いことと、 個の順位はいつも なので、統計量の分布が前もって計算できることです。データが何であっても、同じ分布表が使えるのです。
大きさ の群Aと大きさ の群Bを、まとめて小さい順に並べ、順位を付けます。Aの順位の合計を とします。 として、 のもとで の平均と分散は次のとおりです。
平均の式はすぐ分かります。順位全体の平均は で、Aにはその 人がいるからです。標本が大きいときは、次の を標準正規分布と比べます。
例題:順位和を求めて検定する
新しい製法Aの4個と、従来の製法Bの5個の強度は次のようでした。Aのほうが強いかを調べましょう。
- A: 23, 31, 35, 40
- B: 18, 20, 26, 28, 33
【解き方】
- まとめて順位を付ける: 18, 20, 23, 26, 28, 31, 33, 35, 40 の順なので、Aの順位は 3, 6, 8, 9
- 順位和を求める:
- 平均と分散を求める: 、
- 正確なp値を求める: 通りのうち、 は12通りなので、
答えは「片側のp値は0.095で、有意水準5%では差があるとは言えない」です。
標本が大きいときの例も見ておきましょう。、、 なら、、 で、 です。1.96を超えるので、両側5%で棄却します。
マン・ホイットニーのU統計量
同じ検定を、別の見方で表したのが マン・ホイットニーのU検定 です。Aの値とBの値のペアを全部作り、Aが勝った数を と数えます。順位和との関係は、次の式です。
例題では、 です。ペアは 組なので、20回の対戦でAが16勝したことになります。リーグ戦の勝ち数を数えるイメージです。 は、「Aの値がBの値より大きい確率」の推定値でもあります。
同順位があるとき
同じ値があるときは、順位の平均を与えます。例えば、3位と4位の値が同じなら、どちらも3.5位です。このとき分散が少し小さくなるので、次の補正を使います。 は同じ値のかたまりの大きさです。
効率はどれくらい落ちるのか
順位にすると情報を捨てるので、検出力が大きく落ちる気がしますよね。ところが、実はほとんど落ちません。
正規分布のデータで比べると、 検定に対する漸近相対効率は です。つまり、 検定で95個のデータを使うのと、ウィルコクソン検定で100個のデータを使うのが同じ、という程度です。裾の重い分布では、ウィルコクソン検定のほうが有利になります。
試験のポイント: と の公式で と を取り違えないようにします。正規分布のもとでも効率の損失は5%ほどです。
以上が、ウィルコクソン検定についての説明です。
符号付き順位検定:対応のあるデータ
続いて、対応のあるデータの検定について解説します。
同じ人の薬を飲む前と後のように、対応のあるデータでは差 を見ます。 は「差の分布が0を中心に左右対称」です。
最も単純なのは 符号検定 です。差が正なら勝ち、負なら負けとして、勝ちの数を数えます。 のもとで勝ちの数は に従います。ただし、差の大きさの情報を全部捨てています。
そこで、大きさの順位も使うのが 符号付き順位検定 です。ウィルコクソンの符号付き順位検定とも呼びます。
【符号付き順位検定の手順】
- 差 を求める。0のものは除く
- 絶対値 を小さい順に並べ、順位を付ける
- 差が正のものの順位の合計 を求める
のもとでは、各順位に と が確率2分の1ずつで付きます。したがって、平均と分散は次のとおりです。
順位 が に入るかどうかはコイン投げなので、平均は 、分散は です。これを から まで足すと、上の式になります。
例題:前後の差を検定する
8人の睡眠時間(分)を、ある習慣を始める前後で比べました。後 − 前の差は次のとおりです。増えたと言えるでしょうか?
5, −2, 8, 3, −1, 6, 7, 4
【解き方】
- 絶対値に順位を付ける: 絶対値は1から8まで1つずつあるので、順位は絶対値と同じになる
- 負の差は −2 と −1 なので、
- 順位の総和は36なので、
- 符号の付き方は 通りで、 は5通り
- p値は
答えは「片側のp値は0.020で、有意水準5%で増えたと言える」です。
同じデータで符号検定をすると、8人中6人が増えたので、 で有意になりません。負の差が小さいものばかりだった、という情報が効いているのです。
なお、標本が大きいときの例も見ておきましょう。 で なら、、 で、 です。
以上が、符号付き順位検定についての解説です。
クラスカル・ウォリス検定:3群以上を比べる
さらに、3群以上の比較を見ていきましょう。
クラスカル・ウォリス検定 は、1元配置の分散分析の順位版です。ウィルコクソン検定を3群以上に広げたものでもあります。
全部で 個のデータをまとめて順位を付け、第 群(大きさ )の順位和を とします。統計量は次の式です。
のもとで、各群の大きさが十分なら、 は自由度 のカイ二乗分布に近づきます。
一見、複雑です。でも、中身は群間変動です。各群の順位の平均と全体の順位の平均 のズレを2乗して足し、全体の順位の分散で割ったものを変形すると、この式になります。順位についての分散分析と考えてよいのです。
例題:3つの教材の比較
3つの教材で学んだ人の得点が、次のようでした。教材の間に差はあるかを、有意水準5%で検定しましょう。 です。
- 教材A: 6, 8, 9, 12
- 教材B: 10, 13, 15, 16
- 教材C: 14, 17, 19, 20, 22
【解き方】
- 13人全員に順位を付ける: Aは 1, 2, 3, 5、Bは 4, 6, 8, 9、Cは 7, 10, 11, 12, 13
- 順位和を求める: 、、
- 合計を確かめる: 11 + 27 + 53 = 91 = 13 × 14 ÷ 2
- を計算する:
- 9.05 > 5.99 なので、 を棄却する
答えは「有意水準5%で、教材の間に差があると言える」です。
順位和の合計が と一致するかの確認は、計算ミスを防ぐのに役立ちます。棄却した後にどの群が違うかを調べるには、多重比較が必要な点も、分散分析と同じです。
以上が、クラスカル・ウォリス検定についての説明です。
順位相関係数:順位で関連を測る
最後に、順位相関係数を見ていきましょう。
相関係数は、外れ値に弱く、直線の関係しか測れないのでした。身長と体重のように量で測れるものはよいのですが、「審査員2人の順位づけ」のように、もともと順位しかないデータもあります。
順位相関係数 は、順位の一致の度合いを −1 から1の数で表します。代表は2つです。
1. スピアマンの順位相関係数
と をそれぞれ順位に直して、ピアソンの相関係数を計算したものです。同順位がなければ、次の簡単な式で求まります。 は各個体の順位の差です。
順位が完全に一致すれば、 はすべて0で です。完全に逆なら です。
2. ケンドールの順位相関係数
2つの個体のペアを全部作り、 と の大小が同じ向きのペアを 一致対、逆向きのペアを 不一致対 と呼びます。一致対の数 と不一致対の数 から、次の式で求めます。
言葉で言うと、「意見が一致したペアの割合 − 割れたペアの割合」です。
例題:2人の審査員の順位
7つのラーメン店を、2人の審査員が順位づけしました。
| 店 | ア | イ | ウ | エ | オ | カ | キ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 審査員1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
| 審査員2 | 2 | 1 | 4 | 3 | 7 | 5 | 6 |
【解き方】
- 順位の差を求める: 差は −1, 1, −1, 1, −2, 1, 1
- 2乗の合計を求める: 1 + 1 + 1 + 1 + 4 + 1 + 1 = 10
- スピアマンの式に入れる:
- ペアを数える: 全21組のうち、逆向きは ア-イ、ウ-エ、オ-カ、オ-キ の4組なので、、
- ケンドールの式に入れる:
答えは 、 です。同じデータでも、2つの値は違います。ケンドールの のほうが絶対値が小さくなることが多いので、定義の違いとして押さえましょう。
順位相関係数は、単調な関係ならどんな曲線でも1に近づきます。例えば、 の完全な関係なら、ピアソンの相関係数は1未満ですが、順位相関係数は1です。
無相関の検定では、小さい標本は数表を使います。 が大きいときは、 や、 を で割った値を、標準正規分布と比べます。例えば、 で なら、 で、両側5%で有意です。
試験のポイント:スピアマンの式の分母は で、係数は6です。ケンドールの分母はペアの総数です。
以上が、順位相関係数についての解説です。
細かい式が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「順位にすれば分布の仮定がいらなくなり、効率もほとんど落ちない」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は分布の形を仮定しない検定を紹介しました。値を順位に置きかえると、データの分布が何であっても、同じ土台で確率が計算できます。徒競走の着順で比べるという素朴な発想が、強力な道具になるのです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 並べ替え検定は、ラベルをシャッフルして のもとの分布を自分で作る。
- ウィルコクソン検定は順位の和で2群を比べる。、。
- 符号付き順位検定は、差の符号と大きさの順位を使う。符号検定より多くの情報を使う。
- クラスカル・ウォリス検定は、順位についての分散分析。 は自由度 のカイ二乗分布に近づく。
- 順位相関係数は、順位の一致を測る。スピアマンは順位の差の2乗、ケンドールはペアの向きを見る。
キーワードのおさらい
- ノンパラメトリック法: 母集団の分布の形を特定しない統計手法の総称
- 並べ替え検定: ラベルの付け替えをすべて調べてp値を求める検定
- ウィルコクソン検定: 2群をまとめた順位の和で比べる検定
- 符号付き順位検定: 対応のある差の、符号と絶対値の順位を使う検定
- クラスカル・ウォリス検定: 3群以上を順位で比べる検定
- 順位相関係数: 順位の一致の度合いを −1 から1で表した値
さて、これで検定の話は一段落です。ここまでのデータは、1つ1つが独立でした。でも、今日の天気は昨日の天気に左右され、今月の売上は先月の売上に左右されますよね。
次回は、「次の状態は今の状態だけで決まる」と考える「マルコフ連鎖」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。