準1級-17 応用統計の手法
一般の分布に関する検定法
- 二項分布
- ポアソン分布など基本的な分布に関する検定
- 適合度検定
- イエーツの補正
- 尤度比検定
はじめに
「先月の事故は7件。平均は2.5件なのに、これはたまたま?」
工場の安全担当の人が、こんなふうに頭を悩ませているとします。事故の件数は0, 1, 2, ……という整数で、正規分布の滑らかな山とは形が違います。2.5件を中心に、 検定をすればよいのでしょうか?
実は、件数や回数のデータには、それぞれの分布に合った検定があります。さらに、どんな分布でも機械的に検定を作れる、万能の道具もあります。
そこで登場するのが、今回の主役 尤度比検定 です。前々回の記事で「山頂と基準の高さの差を測る検定」として予告した、あの検定です。あわせて、二項分布・ポアソン分布の検定、パラメータを推定するときの 適合度検定、2×2の表で使う イエーツの補正 も整理します。
前回の記事では、正規分布に関する検定を学びました。今回の記事では、正規分布以外のデータを検定する方法について解説します。
二項分布、ポアソン分布など基本的な分布に関する検定
はじめに、二項分布、ポアソン分布など基本的な分布に関する検定について解説します。
結論を一言で言うと、やり方は2つです。分布の確率をそのまま足す正確検定 と、正規分布で近似する方法 です。
1. 二項分布の検定
が二項分布 に従うとき、 を考えます。統計量 の分布が分かっているので、p値は確率を足し上げるだけで求まります。観測値が で、上側の片側検定なら次の式です。
具体的に見てみましょう。当たりの確率が30%とされるくじを20回引くと、11回当たりました。確率は30%より高いのでしょうか?
【3つの計算の比較】
- 正確検定:
- 正規近似: より、p値は0.0073
- 連続修正つき: より、p値は0.0141
正規近似はp値を半分以下に見積もっています。極限定理の記事で学んだ連続修正を入れると、正確な値にぐっと近づきます。階段の高さを、滑らかな坂で測るときの調整です。 が小さいときは正確検定を使い、 と がどちらも十分大きいときに正規近似を使います。
両側検定では、p値の決め方が2通りあります。片側のp値を2倍する方法と、「観測値以下の確率しか持たない の確率をすべて足す」方法です。分布が左右対称でないと、2つの値は一致しません。この例では、0.0343と0.0248です。
2. ポアソン分布の検定
冒頭の事故の例に戻りましょう。月の事故件数 が平均 のポアソン分布に従うとして、 を考えます。7件以上になる確率は、次のように求まります。
有意水準5%の片側検定なら棄却です。「たまたま」で片付けるには珍しすぎる、という判断です。
データが複数あるときは、ポアソン分布の再生性が役に立ちます。独立なポアソン分布の和は、またポアソン分布です。例えば、1日平均4件とされるクレームが、30日で145件でした。合計は のもとでポアソン分布 に従います。平均が大きいので、正規近似を使います。
ポアソン分布では平均と分散が等しいので、分母は です。1.96を超えるので、有意水準5%の両側検定で棄却します。
3. 2つのポアソン分布の比較
せっかくなので、2つの比較も見てみましょう。同じ期間に、A店で30件、B店で15件の苦情がありました。発生率に差はあるのでしょうか?
、 が独立に 、 に従うとします。 を で推定すると、次の統計量が作れます。
1.96を超えるので、差があると判断します。
もっときれいな方法もあります。合計 を固定すると、 のもとで、 は二項分布 に従います。45件の苦情が、コイン投げで2店に振り分けられたと考えるのです。これで正確検定ができて、両側のp値は0.036です。
試験のポイント:ポアソン分布の検定は「平均 = 分散」を使います。分母に別の分散を推定して入れないように注意します。
以上が、基本的な分布に関する検定についての解説です。
尤度比検定:高さの差を測る
次に、尤度比検定について説明します。
ネイマン・ピアソンの基本定理は、単純仮説どうしの比較でした。これを、複合仮説にそのまま広げたのが 尤度比検定 です。
考え方はとても素直です。 の中で最もうまくデータを説明できたときと、制限なしで最もうまく説明できたときを比べます。 を押しつけても説明力があまり落ちないなら、 を残します。大きく落ちるなら、棄却します。
例えるなら、制服で大会に出られるかを試すようなものです。自由な服装のときの記録と、制服のときの記録を比べて、差が小さければ制服でも問題ないと判断します。
尤度比は次の式で定めます。
は の範囲、 はパラメータ全体の範囲です。分子の範囲のほうが狭いので、 です。 が小さいほど、 に不利です。前々回の記事の とは、分子と分母の向きが逆になっている点に注意しましょう。
棄却の境目には、次の ウィルクスの定理 を使います。標本が大きいとき、 のもとで次の近似が成り立ちます。
自由度 は、 によって減った自由なパラメータの数です。つまり、 の次元から の次元を引いた値です。
なぜカイ二乗分布なのでしょうか? 山頂の近くでは、対数尤度の山は放物線で近似できます。すると、高さの差の2倍は 、つまりワルド型の統計量とほぼ同じになるからです。
例題:比率の尤度比検定
ある広告のクリック率は25%とされています。200人に見せると、70人がクリックしました。 を、尤度比検定で調べましょう。 です。
【解き方】
- 分母の最大値を求める: を代入する
- 分子の値を求める: を代入する
- 二項係数は約分で消えるので、対数の差だけが残る
- 数値を入れる:
- 9.90 > 3.84 なので、 を棄却する
答えは「有意水準5%で、クリック率は25%ではないと言える」です。
3つの検定を並べる
前々回の記事の2つと合わせて、3つの検定がそろいました。
| 検定 | 測るもの | 比率の例題の値 |
|---|---|---|
| ワルド型検定 | 山頂と基準の距離 | 8.79 |
| 尤度比検定 | 山頂と基準の高さの差 | 9.90 |
| スコア検定 | 基準の地点の傾き | 10.67 |
のもとで、3つはどれも同じカイ二乗分布に近づきます。実務で迷ったら尤度比検定を選ぶことが多いです。パラメータの表し方に左右されず、モデルの比較に広く使えるからです。ただし、 のモデルと全体のモデルの両方を推定する必要があります。
別の例:ポアソン分布と正規分布
前々回の記事の例で、20日間の平均が2.7件、 の場合を考えましょう。ポアソン分布の尤度比は、次の形になります。
数値を入れると4.41です。ワルド型の3.63では棄却せず、スコア検定の4.90では棄却でした。尤度比検定は4.41なので棄却で、2つの間の値です。
正規分布に使うと、面白いことが起きます。分散未知の の尤度比は、計算すると次の形に整理できます。
は の減少関数です。「 が小さいとき棄却」は「 が大きいとき棄却」と同じです。つまり、両側の 検定は尤度比検定です。この場合は近似ではなく、t分布で正確に境目が決まります。
試験のポイント: の自由度は、 が固定したパラメータの数です。「分子と分母の最大値を求めて比をとる」手順を計算で問われます。
以上が、尤度比検定についての説明です。
適合度検定:パラメータを推定するとき
続いて、適合度検定 について解説します。
2級で学んだ適合度検定では、サイコロの確率のように、理論の確率が最初から決まっていました。自由度は「カテゴリの数 − 1」でした。
では、「このデータはポアソン分布に従うか」を調べたいときはどうでしょうか? の値は分かりません。データから推定するしかありません。
ここがポイントです。推定したパラメータの数だけ、自由度が減ります。 カテゴリが 個、推定したパラメータが 個なら、次のようになります。
データに合わせて を調整すると、理論の値はデータに近づきます。テストの答えを見ながら予想を立てるようなもので、ズレは自然と小さくなります。その分だけ、基準を厳しくする必要があるのです。
尤度比の考え方からは、次の統計量も作れます。これを G統計量 と呼びます。
も同じ自由度のカイ二乗分布に近づきます。カイ二乗統計量とGの関係は、スコア検定と尤度比検定の関係に当たります。
例題:ポアソン分布への適合度
ある窓口に1日に届く問い合わせの件数を、120日分まとめました。合計は156件で、1日平均は1.3件です。ポアソン分布に従うと言えるかを、有意水準5%で検定しましょう。 です。
| 件数 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 観測度数 | 45 | 32 | 20 | 13 | 10 |
| 確率 | 0.273 | 0.354 | 0.230 | 0.100 | 0.043 |
| 期待度数 | 32.7 | 42.5 | 27.6 | 12.0 | 5.2 |
【解き方】
- を推定する:
- ポアソン分布の確率を求める: 例えば、。最後の階級は残りの確率
- 120倍して期待度数を求める。どの階級も5以上である
- を計算する: 4.62 + 2.60 + 2.11 + 0.09 + 4.51 = 13.9
- 自由度を求める: 5 − 1 − 1 = 3
- 13.9 > 7.81 なので、 を棄却する
答えは「ポアソン分布に従うとは言えない」です。0件の日と4件以上の日が、どちらも期待より多いですね。これは、平均のわりにばらつきが大きいことを示しています。忙しい日と暇な日が混ざっていて、発生率が一定でないのかもしれません。
を計算すると12.9で、同じ結論になります。
試験のポイント:自由度は「カテゴリの数 − 1 − 推定したパラメータの数」です。ポアソン分布なら1個、正規分布なら平均と分散の2個を引きます。
以上が、適合度検定についての解説です。
イエーツの補正:2×2の表の調整
最後に、イエーツの補正について見ていきましょう。
2級で学んだとおり、2×2の表の独立性の検定は、自由度1のカイ二乗分布を使います。度数の表を次のように書くと、 には便利な公式があります。
| 事象あり | 事象なし | 計 | |
|---|---|---|---|
| 群1 | |||
| 群2 | |||
| 計 |
ところが、度数は整数で、 のとれる値はとびとびです。それを滑らかなカイ二乗分布で測ると、度数が少ないときにp値が小さめに出ます。つまり、有意になりやすくなります。
そこで、二項分布の連続修正と同じ調整をします。これが イエーツの補正 です。ズレの大きさを、 だけ差し引きます。
階段の角を少し削ってから坂と比べる、というイメージです。各セルで言えば、 から0.5を引いてから計算するのと同じです。適合度検定でカテゴリが2つのときも、同じように補正できます。補正は自由度1のときだけに使い、それより大きな表には使いません。
例題:補正で結論が変わる
新しい指導法のクラス30人のうち16人が、これまでの指導法のクラス30人のうち8人が合格しました。指導法と合否の関連を、有意水準5%で調べましょう。
| 合格 | 不合格 | 計 | |
|---|---|---|---|
| 新しい指導法 | 16 | 14 | 30 |
| これまでの指導法 | 8 | 22 | 30 |
| 計 | 24 | 36 | 60 |
【解き方】
- を計算する:
- 分母を計算する:
- 補正なし:
- 補正あり:
- 3.84と比べる: 補正なしは棄却、補正ありは棄却しない
同じ表なのに、結論が分かれました。p値は補正なしが0.035、補正ありが0.065です。
どちらを信じればよいのでしょうか? 確率を直接計算するフィッシャーの正確検定で調べると、p値は0.064です。この例では、補正ありのほうが正確な値に近いのです。
ただし、イエーツの補正は保守的、つまり棄却しにくくなりすぎることも知られています。度数が少ないときは、補正に頼らず正確検定を使うのが確実です。正確検定の中身は、分割表の解析の記事で学びます。
試験のポイント:補正の式の の位置と、絶対値をとってから引くことを押さえます。補正すると の値は小さくなります。
以上が、イエーツの補正についての説明です。
細かい式が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「分布が分かれば確率を足せばよい」「分からなくても尤度比を使えばカイ二乗分布で判定できる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は正規分布以外の検定を紹介しました。件数や回数のデータは、その分布の確率をそのまま足せば検定できます。そして、尤度さえ書ければ、尤度比検定が大標本の検定を機械的に作ってくれます。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 二項分布・ポアソン分布の正確検定は、確率の足し上げ。大標本なら正規近似と連続修正を使う。
- 2つのポアソン分布の比較は、合計を固定すると二項分布の問題になる。
- 尤度比検定は「制服と自由な服装の記録の差」。 は、 が固定したパラメータの数を自由度とするカイ二乗分布に近づく。
- 適合度検定では、推定したパラメータの数だけ自由度が減る。
- イエーツの補正は、2×2の表の階段の角を削る調整。度数が少ないなら正確検定が確実。
キーワードのおさらい
- 二項分布、ポアソン分布など基本的な分布に関する検定: 分布の確率の足し上げや正規近似による検定
- 尤度比検定: のもとの最大尤度と全体の最大尤度の比で判定する検定
- ウィルクスの定理: がカイ二乗分布に近づくという定理
- 適合度検定: データが理論の分布に合うかを調べる検定
- G統計量: 尤度比から作る適合度の統計量
- イエーツの補正: 2×2の表の に行う連続修正
さて、ここまでの検定は、どれも「データの分布の形」を仮定していました。では、分布の形がまったく分からず、データも少ないときはどうすればよいのでしょうか?
次回は、値そのものではなく順位を使う「ノンパラメトリック法」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。