準1級-16 応用統計の手法
正規分布に関する検定
- 母平均
- 母分散に関する検定
- 2標本問題に関する検定
- 母相関係数に関する検定
はじめに
「 検定なら2級でやったのに、また同じことをするの?」
確かに、2級では母平均・母分散の検定を、手順どおりに計算できるようになりました。でも、次の質問にはどう答えますか? なぜ 統計量は、分からないはずの を使わずに計算できるのでしょうか? 検定の検出力は、どう計算するのでしょうか? 母相関係数が0.5かどうかは、どう検定するのでしょうか?
実は、2級の検定は「計算の手順」でした。準1級で問われるのは、その手順を支える「分布の理屈」です。理屈が分かると、見たことのない問題でも検定を組み立てられるようになります。
そこで登場するのが、今回の主役 正規分布に関する検定 です。母平均、母分散、2標本問題、母相関係数の4つを、導出と検出力まで含めて整理します。
前回の記事では、最強力検定とワルド型・スコア検定の作り方を学びました。今回の記事では、データが正規分布に従うときに、標本が小さくても使える正確な検定について解説します。
母平均の検定:σを消す仕組み
はじめに、母平均 の検定について解説します。
2級で学んだとおり、 が に従うとき、 の検定統計量は、 が既知なら 、未知なら でした。前回の記事で見たように、 が既知なら、片側の 検定は一様最強力検定です。
問題は、 が未知のときです。 は しか指定していません。 はどんな値でもよいので、帰無仮説は実は複合仮説です。このように、興味はないのに式に残ってしまうパラメータを 局外パラメータ と呼びます。
局外パラメータは、検定の邪魔者です。 の値が分からないと、棄却域の境目が決まらないからです。そこで、 が式から消える統計量を作ります。
標本分布の記事で学んだ3つの事実を組み合わせましょう。
【tを作る3つの部品】
- は、 のもとで に従う
- は、自由度 のカイ二乗分布に従う
- と は独立である
標準正規分布の確率変数を、「カイ二乗分布の確率変数を自由度で割った値」の平方根で割ると、t分布になります。ここでは、部品1を部品2で作った値で割ります。独立性は部品3が保証します。
ここがポイントです。分子の と分母の が、きれいに打ち消し合います。2人の身長の比は、cmで測ってもインチで測っても同じですよね。 は物差しの単位のようなもので、比をとると結果に効かなくなるのです。こうして、 が未知でも分布が確定します。これが自由度 のt分布です。
例題:内容量の検定(導出を確かめる)
ジュース16本の内容量を測ると、平均204.8mL、標準偏差(不偏分散の平方根)8mLでした。母平均は200mLかを、有意水準5%で検定しましょう。 です。
【解き方】
- 仮説を立てる: 、
- 検定統計量を計算する:
- 2.40 > 2.131 なので、 を棄却する
答えは「有意水準5%で、母平均は200mLではないと言える」です。p値は0.030です。
t検定の検出力:非心t分布
では、 が間違っているとき、 はどんな分布に従うのでしょうか? 分子の平均が0からずれるので、 は普通のt分布になりません。
のとき、 は自由度 、非心度 の 非心t分布 に従います。
言葉で言うと、非心度は「本当の差が、標準誤差の何本分か」です。これが大きいほど、 の分布は棄却域のほうへ押し出され、検出力が上がります。
具体的に見てみましょう。差の大きさが標準偏差の半分、つまり のとき、 の片側5%検定の検出力を求めます。
【検出力の計算】
- 棄却の境目:
- 非心度:
- 検出力: 自由度15、非心度2の非心t分布で1.753を超える確率で、0.604
が既知の 検定なら0.639になります。 を推定する分だけ、検出力が少し下がるのです。 まで増やすと、検出力は0.81に届きます。
試験のポイント:分散未知の検定の検出力は、対立仮説のもとの非心t分布で考えます。標本が大きければ、正規分布で近似してかまいません。
以上が、母平均の検定についての解説です。
母分散の検定:外れやすい検定
次に、母分散に関する検定 について説明します。
の検定には、2級で学んだ次の統計量を使います。
のもとで、これは自由度 のカイ二乗分布に従います。平均 が未知でも問題ありません。 は からの偏差で作るので、 が式に入らないからです。
この検定の検出力は、非心分布を使わずに計算できます。ここが母平均の検定との違いです。
の本当の値が なら、 が普通のカイ二乗分布に従います。したがって、棄却の境目を 倍するだけです。物差しの目盛りを付け替えるだけ、というイメージです。
例題:ばらつきの検定と検出力
機械の部品の長さの分散は9以下が基準です。21個を調べると、不偏分散は14.4でした。分散が基準より大きいかを、有意水準5%で検定しましょう。また、本当の分散が18のときの検出力を求めましょう。 です。
【解き方】
- 仮説を立てる: 、
- 検定統計量を計算する:
- 32.0 > 31.41 なので、 を棄却する
- 検出力は、棄却の条件 を書き直す:
- 自由度20のカイ二乗分布で15.71を超える確率は0.735
答えは「分散は基準より大きいと言える。分散が18のときの検出力は約0.73」です。
正規性への弱さ
ただし、母分散の検定には大きな弱点があります。母集団が正規分布でないと、有意水準が大きく狂います。 なぜでしょうか?
母平均の 検定は、正規分布から少し外れても、中心極限定理のおかげで大きく崩れません。一方、 の分散は、大標本で次のようになります。
は分布の尖度(正規分布を0とした値)です。正規分布なら で、カイ二乗分布の分散に一致します。裾の重い分布では なので、 は検定の想定より大きく揺れます。 を増やしても、このズレは消えません。
要するに、 検定は多少の悪路でも走れる車で、分散の検定は舗装路でしか走れない車です。
試験のポイント:平均の検定は正規性からのずれに比較的強く、分散の検定は弱いです。分散の検定や分散の比の検定を使うときは、正規性を確認します。
以上が、母分散の検定についての説明です。
2標本問題:等分散とウェルチの理屈
続いて、2標本問題に関する検定 について解説します。
2級で学んだ計算の手順は、次の3つでした。
【2標本問題の検定】
- 分散の比の検定: を自由度 のF分布と比べる
- 等分散の 検定: プールした分散を使い、自由度 のt分布と比べる
- ウェルチの検定: それぞれの不偏分散を使い、自由度を近似で求める
ここでは、理屈の部分を掘り下げます。
1. なぜウェルチの検定は近似なのか
のとき、次の統計量を考えます。
分母の中身は、2つの独立なカイ二乗分布の確率変数の、重みの違う和 です。重みが に依存するので、 が式から消えません。母平均の検定のような打ち消し合いが起きないのです。これは ベーレンス・フィッシャー問題 と呼ばれ、正確な解がありません。
そこで、分母の中身を「ちょうどよい自由度 のカイ二乗分布の定数倍」で近似します。平均と分散が一致するように を決めます。 を使うと、次の式が出てきます。
これが2級で使ったウェルチの自由度です。天下り式に見えた式の正体は、モーメントのつじつま合わせだったのです。
例題:2つの工場の比較
A工場の製品10個は、平均58、不偏分散36でした。B工場の製品16個は、平均53、不偏分散9でした。分散の比と平均の差を、有意水準5%で検定しましょう。、 です。
【解き方】
- 分散の比: 。3.12より大きいので、等分散とは言えない
- 標準誤差:
- ウェルチの :
- 自由度: なので、切り捨てて11とする
- 2.45 > 2.201 なので、平均に差があると判断する
答えは「分散も平均も、等しいとは言えない」です。
なお、「まずF検定をして、結果しだいで 検定を切り替える」という2段階の手順は、全体の有意水準が名目どおりになりません。そのため、最初からウェルチの検定を使う立場も広まっています。
2. 対応のある場合の利点
同じ人の前後のように、対応のあるデータは差 の1標本の 検定にします。なぜ、これが有利なのでしょうか? 差の分散を見ると分かります。
例えば、、前後の相関が なら、 です。独立な2群なら200なので、分散が5分の1になります。個人差という共通のノイズが、引き算で消えるからです。
ただし、自由度は に減ります。相関が弱いなら、検出力はかえって下がることもあります。
以上が、2標本問題についての解説です。
母相関係数の検定:フィッシャーのz変換
最後に、母相関係数に関する検定 を見ていきましょう。
が2変量正規分布に従うとき、標本相関係数 から母相関係数 を調べます。 の値が0かどうかで、方法が分かれます。
1. ρ = 0 の検定
には、次の統計量を使います。
のもとで、 は自由度 のt分布に従います。
この式は、単回帰の傾きの検定から導けます。傾きは 、残差変動は でした。これらを に代入すると、 と が消えて上の式になります。つまり、「相関が0」と「傾きが0」は、同じことを調べています。
例えば、27人のデータで なら、 です。 より大きいので、棄却します。
では、 が0.381を超えると有意になります。人数が多いと、弱い相関でも有意になる点に注意しましょう。有意であることと、相関が強いことは別の話です。
2. ρ = ρ₀ の検定
のとき、 の分布は歪み、分散も に左右されます。 が1に近いと、 は1の手前で押しつぶされるからです。天井の低い部屋で跳ぶと、上には跳べず下にだけ動けるようなものです。
そこで、天井を取り払う変換を使います。これが フィッシャーの 変換 です。
が−1から1へ動くと、 は から まで動きます。そして、 が大きいとき、次の近似が成り立ちます。
分散に が入っていないのがポイントです。これはデルタ法の結果です。 で、変換の微分は なので、掛けると が消えて になります。分母を にするのは、近似をよくするための調整です。
例題:相関係数の検定と信頼区間
28人のデータで でした。 を有意水準5%で検定し、 の95%信頼区間を求めましょう。
【解き方】
- 変換する: は 、 は
- 標準化する:
- なので、 を棄却しない
- の信頼区間を求める: より、0.475〜1.259
- の目盛りに戻す: で変換して、0.44〜0.85
答えは「 は否定できず、95%信頼区間は0.44〜0.85」です。区間が0.7について左右非対称なのは、天井の近くにいるからです。
2つの母相関係数の比較も同じです。独立な標本で 、 を求めて、次の を標準正規分布と比べます。
例えば、 で 、 で なら、 で、差があるとは言えません。
試験のポイント: の検定は t分布、 の検定は 変換と正規分布です。分散は で、 ではありません。
以上が、母相関係数の検定についての説明です。
細かい導出が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「局外パラメータを消す統計量を作る」「対立仮説のもとの分布から検出力を求める」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は正規分布に関する検定を、導出と検出力まで含めて紹介しました。どの検定も、「邪魔な を消す」「分布を確定させる」という同じ発想でできています。式を丸暗記するより、この発想を押さえるほうが、応用が利きます。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 統計量は、分子と分母の が打ち消し合うので、局外パラメータがあっても分布が確定する。
- 検定の検出力は非心t分布で求める。非心度は「本当の差が標準誤差の何本分か」。
- 分散の検定の検出力は、境目を 倍するだけ。ただし正規性からのずれに弱い。
- ウェルチの自由度は、モーメントを合わせる近似から出てくる。対応があるなら差をとる。
- は t分布、 はフィッシャーの 変換で検定する。
キーワードのおさらい
- 母平均、母分散に関する検定: 統計量とカイ二乗統計量を使う、正規母集団の検定
- 局外パラメータ: 興味の対象ではないが、分布に含まれるパラメータ
- 非心t分布: 対立仮説のもとで 統計量が従う分布
- 2標本問題に関する検定: 2つの母集団の平均や分散を比べる検定
- ベーレンス・フィッシャー問題: 分散の異なる2標本の平均の比較に、正確な解がないという問題
- 母相関係数に関する検定: を t分布で、 を 変換で調べる検定
- フィッシャーの 変換: の分布を正規分布に近づけ、分散を安定させる変換
さて、ここまでは正規分布という舗装路の話でした。でも、当たりの回数や1日の事故の件数は、正規分布には従いません。
次回は、二項分布やポアソン分布の検定と、どんな分布にも使える尤度比検定を扱う「一般の分布に関する検定法」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。