準1級-15 応用統計の手法
検定法の導出
- ネイマン・ピアソンの基本定理
- ワルド型検定
- スコア検定
はじめに
「検定統計量って、いったい誰がどうやって決めたの?」
2級までの検定では、 や の式が最初から用意されていました。その式に数値を入れれば、答えは出ます。でも、なぜ標本平均を使うのでしょうか? 中央値でも、最大値でも、検定は作れそうですよね。
実は、有意水準をそろえても、検定には上手下手があります。同じ5%の危険を引き受けるなら、差があるときに見抜ける確率、つまり検出力は高いほどよいはずです。そして、どの検定が最も強力かは、勘ではなく定理で決まります。
そこで登場するのが、今回の主役 ネイマン・ピアソンの基本定理 です。最も強力な検定の作り方を教えてくれる定理です。さらに、この定理が使えない場面のために、尤度から検定を作る2つの型、ワルド型検定 と スコア検定 も用意されています。
前回の記事では、検出力やサンプルサイズの決め方を学びました。今回の記事では、検定統計量がどこから来るのかを、導出までさかのぼって解説します。
最も強力な検定とは何か
はじめに、「よい検定」の基準について解説します。
結論を一言で言うと、よい検定とは、第一種の過誤の確率を 以下に抑えたうえで、検出力が最大の検定 です。誤って棄却する危険に上限を決め、その範囲で最大の成果を狙います。
例えるなら、限られた予算で買い物をするようなものです。予算が有意水準 、買った品物の満足度が検出力です。予算を超えてはいけません。予算の中で、満足度が最大になる買い方を探します。
まず、言葉を整えましょう。パラメータの値を1点に指定する仮説を 単純仮説、 のように幅を持つ仮説を 複合仮説 と呼びます。
【よい検定の呼び名】
- 最強力検定: 単純仮説どうしの検定で、大きさ の検定の中で検出力が最大のもの
- 一様最強力検定: 複合対立仮説のすべての点で、同時に検出力が最大のもの
検定の 大きさ とは、帰無仮説のもとで棄却する確率のことです。
具体的に見てみましょう。ある製品の検査結果 は a〜e の5段階で、正常な工程と異常な工程では、確率が次のように違うとします。1回の観測で「異常」を検出したいとします。
| 検査結果 | a | b | c | d | e |
|---|---|---|---|---|---|
| (正常)の確率 | 0.50 | 0.30 | 0.10 | 0.06 | 0.04 |
| (異常)の確率 | 0.10 | 0.20 | 0.20 | 0.24 | 0.26 |
有意水準10%の棄却域を作ります。候補は2つあります。
【2つの棄却域】
- 棄却域 : 大きさ0.10、検出力0.20
- 棄却域 : 大きさ0.06 + 0.04 = 0.10、検出力0.24 + 0.26 = 0.50
どちらも大きさは同じ0.10です。それなのに、検出力は2.5倍も違います。同じ予算でも、買い方しだいで満足度はこれほど変わるのです。
以上が、よい検定の基準についての解説です。
ネイマン・ピアソンの基本定理
次に、最強力検定の作り方を説明します。
先ほどの表で、 の確率を の確率で割ってみましょう。a から順に、0.2、0.67、2、4、6.5 です。この比が大きい結果ほど、「異常のほうが説明しやすい」結果です。買い物で言えば、値段のわりに満足度が高い品物です。
答えは単純です。費用対効果の高い順に、予算いっぱいまで買う。これが定理の中身です。e を買い、d を買うと、予算の0.10を使い切ります。これが棄却域 でした。
式で書きましょう。 と がどちらも単純仮説のとき、尤度の比を次のように定めます。
ネイマン・ピアソンの基本定理 は、次の主張です。
この形の検定は、大きさ 以下のすべての検定の中で、検出力が最大になります。
はデータ のもとでの尤度、 は大きさがちょうど になるように決める定数です。言葉で言うと、「 のほうが より何倍もらしいか」が一定以上なら棄却する、ということです。
証明の要点
証明は短いので、筋道を見ておきましょう。 を定理の棄却域、 を大きさ 以下の別の棄却域とします。密度を 、 とします。
2つの棄却域に共通の部分は差に効かないので、違う部分だけを比べます。
の中では 、 の外では です。これを使うと、次のように評価できます。
最後の不等号は、 だからです。つまり、 から品物を返して別の品物に買い替えると、必ず費用対効果が下がる、というのが証明の中身です。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 離散型の分布では、 の棄却域の大きさが、ちょうど にならないことがあります。このとき、境目の値が出たら確率 で棄却する 確率化検定 を使うと、大きさを にそろえられます。理論上の道具で、実務ではほとんど使いません。
例題:正規分布の平均の最強力検定
が に独立に従うとします。 と の、有意水準5%の最強力検定を導き、検出力を求めましょう。
【解き方】
- 尤度比の対数をとる: 正規分布の密度を代入して整理すると、次の式になる
- なので、 は の増加関数である。「」は「」と同じ
- のもとで なので、
- 検出力は、 のもとで となる確率:
答えは「 なら棄却、検出力は約0.44」です。2級で学んだ片側の 検定は、最強力検定だったのです。ここで標本平均が選ばれたのは、慣習ではなく定理の結論です。
例題:指数分布の最強力検定
別の分布でも試してみましょう。機械の故障間隔が、密度 の指数分布に従うとします。5回の観測で、 と の、有意水準5%の最強力検定を求めましょう。
【解き方】
- 尤度比を計算する:
- は の減少関数なので、棄却域は「」の形になる
- のもとで は自由度10のカイ二乗分布に従う。下側5%点は3.94
- より、
答えは「5回の故障間隔の合計が1.97未満なら棄却」です。 が大きいほど故障間隔は短いので、合計が小さいときに棄却するのは、直感とも合っています。
のもとでは が同じ分布に従うので、検出力は自由度10のカイ二乗分布で7.88以下となる確率、約0.36です。
片側検定と一様最強力検定
例題の棄却域 をもう一度見てください。式の中に が残っていません。 が54でも60でも、 である限り、同じ棄却域が最強力です。
つまり、片側の対立仮説 に対して、この検定は一様最強力検定です。尤度比がある統計量の単調な関数になる分布の族では、同じことが成り立ちます。この性質を 単調尤度比 と呼びます。
一方で、両側の対立仮説には、一様最強力検定は一般にありません。 に最強力な検定は右側を棄却し、 に最強力な検定は左側を棄却するので、両方を同時に満たせないからです。
試験のポイント:単純仮説どうしの最強力検定は、尤度比の形を整理して「どの統計量が大きい(小さい)ときに棄却か」を導きます。定数 は、その統計量の のもとの分布で決めます。
以上が、ネイマン・ピアソンの基本定理についての説明です。
ワルド型検定:推定値と基準の距離を測る
続いて、ワルド型検定について解説します。
ネイマン・ピアソンの基本定理は強力ですが、弱点があります。扱えるのは基本的に単純仮説どうしで、一様最強力検定がないと行き詰まります。分布が複雑だと、統計量の正確な分布も分かりません。
そこで、標本が大きいときに使える、汎用の検定を作ります。材料は、最尤推定量の漸近正規性です。推定量の漸近的性質の記事で学んだとおり、大きさ の標本のフィッシャー情報量を とすると、最尤推定量 は次の分布に近づきます。
が正しければ、 は の近くにあるはずです。そこで、「推定値と基準の距離が、標準誤差の何本分か」を測ります。これが ワルド型検定 です。
標本が大きいとき、 のもとで は自由度1のカイ二乗分布に近づきます。平方根をとった を標準正規分布と比べても同じです。
ここがポイントです。分散を、最尤推定値 で評価します。回帰の出力で見慣れた「係数 ÷ 標準誤差」は、まさにこの形です。
例えば、コインを100回投げて、表が60回出たとします。 を検定しましょう。
ベルヌーイ試行の 回分のフィッシャー情報量は です。これを で評価します。
を超えるので、 を棄却します。
補足(ここは読み飛ばしてOK): パラメータが 個のベクトルのときは、 が自由度 のカイ二乗分布に近づきます。
以上が、ワルド型検定についての解説です。
スコア検定:基準の地点で坂の傾きを測る
最後に、スコア検定と、2つの型の比べ方を見ていきましょう。
ワルド型検定は、まず山頂 を見つけてから、基準 までの距離を測りました。スコア検定は発想が逆です。山頂を探さず、基準の地点に立って足元の傾きを測ります。
対数尤度を、 を横軸にした山だと考えてください。 が山頂の近くなら、足元はほぼ平らです。山頂から遠ければ、足元は急な坂になります。この傾きを スコア関数 と呼びます。
スコア関数には、便利な性質があります。真の のもとで、平均は0、分散はフィッシャー情報量 です。そこで、傾きが物差し何本分かを測ります。これが スコア検定 です。
のもとで、 は標本が大きいとき自由度1のカイ二乗分布に近づきます。ラグランジュ乗数検定と呼ばれることもあります。
ここがポイントです。式の中に が出てきません。 の値だけで計算できるのです。
例題:比率のスコア検定
先ほどのコインで、スコア検定を導いてみましょう。
【解き方】
- 対数尤度を書く:
- 微分する:
- フィッシャー情報量を使う:
- を整理する:
- 数値を入れる:
答えは で、3.84を超えるので棄却です。
見覚えのある形が出てきました。 は、2級で学んだ母比率の検定の です。分母に を使うあの検定は、スコア検定だったのです。
2つの型の比べ方
ワルド型検定とスコア検定は、同じ山を別の場所から測っています。
| 測るもの | 分散を評価する場所 | 計算に必要なもの | |
|---|---|---|---|
| ワルド型検定 | 山頂と基準の距離 | 制限なしの最尤推定 | |
| スコア検定 | 基準の地点の傾き | のもとの推定 |
標本が大きいと、2つの値は近づきます。でも、標本が小さいと結論が割れることがあります。
具体的に見てみましょう。1日のクレーム件数がポアソン分布に従うとして、20日間の平均が2.7件でした。 を有意水準5%で調べます。 なので、次のようになります。
【2つの統計量】
- ワルド型: (棄却しない)
- スコア: (棄却する)
違いは、分散を で測るか、 で測るかだけです。それだけで、3.84の両側に分かれました。
使い分けの目安は次のとおりです。
【使い分け】
- ワルド型検定: モデルを推定した後なら、出力の係数と標準誤差だけで計算できる
- スコア検定: 複雑なモデルを推定しなくても、 のモデルだけで「項を足す価値があるか」を調べられる
ワルド型検定には、弱点もあります。同じ仮説でも、 を に置き換えるなど、パラメータの表し方を変えると の値が変わるのです。スコア検定には、この問題はありません。
試験のポイント:比率の検定で、分母に を使えばスコア型、 を使えばワルド型です。どちらの値で分散を評価するかが、2つの型の違いです。
なお、もう1つ、山頂と基準の「高さの差」を測る検定があります。それが尤度比検定で、2つ先の記事で学びます。
以上が、スコア検定と2つの型の比べ方についての説明です。
細かい式変形が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「最強力検定は尤度比で決まる」「大標本の検定は、山の距離か傾きを測る」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は検定統計量がどこから来るのかを紹介しました。 や の式は、誰かが適当に決めたものではありません。尤度という1つの材料から、最強力検定や大標本の検定が導かれていたのです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- よい検定とは、大きさを に抑えたうえで、検出力が最大の検定。
- ネイマン・ピアソンの基本定理は「費用対効果の順に買う」。尤度比が大きいデータから棄却域に入れる。
- 片側の対立仮説には一様最強力検定があることが多いが、両側には一般にない。
- ワルド型検定は山頂と基準の距離を測る。分散は で評価する。
- スコア検定は基準の地点の傾きを測る。分散は で評価し、 の推定だけで計算できる。
キーワードのおさらい
- ネイマン・ピアソンの基本定理: 単純仮説どうしでは、尤度比が大きいときに棄却する検定が最強力であるという定理
- 最強力検定: 大きさ の検定の中で検出力が最大の検定
- 一様最強力検定: 対立仮説のすべての点で検出力が最大の検定
- ワルド型検定: 最尤推定値と基準の値の差を、 で評価した標準誤差で測る検定
- スコア検定: 対数尤度の傾きを、 で評価した分散で測る検定
さて、理論の道具がそろいました。では、この理論から見ると、2級で学んだ正規分布の検定はどう整理できるのでしょうか? 検出力は、どう計算すればよいのでしょうか?
次回は、母平均・母分散・母相関係数を扱う「正規分布に関する検定」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。