準1級-14 応用統計の手法
検定の基礎
- 仮説
- 検定統計量
- p値
- 棄却域
- 第一種の過誤
- 第二種の過誤
- 検出力(検定力)
- 検出力曲線
- サンプルサイズの決定
- 多重比較
はじめに
「検定で有意差なし。じゃあ、差はないってこと?」
例えば、新しい教材の効果を調べるために、10人に試してもらったとしましょう。点数は平均で3点上がりましたが、検定の結果は「有意差なし」でした。この教材に効果はない、と結論してよいでしょうか?
実は、そうとは言えません。人数が少なければ、効果が本当にあっても、検定はそれを見逃しやすいからです。感度の低い火災報知器が鳴らなかったからといって、火事がないとは言い切れませんよね。
そこで登場するのが、今回の主役 検出力 です。検出力とは、差が本当にあるときに、検定がそれを見つける確率です。
前回の記事では、信頼区間の作り方と、検定との表裏の関係を学びました。今回の記事では、検定の枠組みを整理し直したうえで、検出力の計算、サンプルサイズの決定、たくさんの検定を同時に行うときの多重比較について解説します。
検定の枠組みと2種類の過誤
はじめに、検定の枠組みを記号で整理します。
統計的な 仮説 とは、母数についての主張のことです。母数全体を2つに分けて、次のように書きます。
が帰無仮説、 が対立仮説です。 のように1点を指す仮説を単純仮説、 のように幅のある仮説を複合仮説と呼びます。
データから計算して判断に使う統計量を 検定統計量 と呼びます。そして、検定統計量の値のうち、 を棄却する範囲が 棄却域 です。検定を決めることは、棄却域を決めることと同じです。
判断の誤りには、2種類あります。2級でも学びましたが、準1級の記号で表にしておきましょう。
| を棄却しない | を棄却する | |
|---|---|---|
| が真 | 正しい判断 | 第一種の過誤(確率 ) |
| が真 | 第二種の過誤(確率 ) | 正しい判断(確率 ) |
火災報知器に例えると、第一種の過誤は「火事がないのに鳴る誤報」で、第二種の過誤は「火事なのに鳴らない見逃し」です。感度を上げれば見逃しは減りますが、誤報が増えます。2つの確率は、シーソーの両端のような関係です。
そこで、検定では誤報の確率に上限を決めます。 の中で棄却する確率の最大値を、検定の大きさと呼び、これが有意水準 以下になるように棄却域を選びます。
は検定統計量、 は棄却域です。そのうえで、見逃しをできるだけ小さくするのが、検定の設計の方針です。
次に p値 です。p値は、 が正しいとしたときに、実際に観測された値か、それより極端な値が得られる確率です。 なら棄却、というのは棄却域を使う判定と同じです。例えば、 なら、片側のp値は約0.036、両側のp値は約0.072です。同じデータでも、片側5%では棄却され、両側5%では棄却されません。
p値について、押さえておきたい点が3つあります。
【p値の注意点】
- p値は「 が正しい確率」ではない。 を仮定して計算した、データの珍しさである
- が単純仮説で統計量が連続型なら、 のもとでp値は に従う。だから となる
- p値の大きさは効果の大きさではない。 が大きければ、ごく小さい差でもp値は小さくなる
統計量が離散型のときは、有意水準をちょうど5%にできないこともあります。例えば、 で を右片側で調べるとします。棄却域を とすると、第一種の過誤の確率は0.0547で5%を超えます。 なら0.0107です。したがって、5%を超えないのは のほうです。
試験のポイント:第一種の過誤は「 が真なのに棄却」、第二種の過誤は「 が偽なのに棄却しない」です。検出力は で、 そのものではありません。
以上が、検定の枠組みについての解説です。
検出力と検出力曲線:差を見つける確率
次に、検定の性能を計算する方法を説明します。
検出力(検定力)とは、 が真のときに を正しく棄却する確率、つまり です。検出力は真の母数の値によって変わるので、 の関数として見ます。
この関数のグラフが 検出力曲線 です。横軸に真の母数、縦軸に棄却する確率をとります。
正規母集団で が既知の片側検定で、式を導いてみましょう。 対 で、棄却域は です。真の平均が のとき、 は だけ右にズレた標準正規分布に従います。
は標準正規分布の分布関数です。言葉で言うと、「棄却の線が、真のズレの分だけ手前に来る」ということです。両側検定なら、両側の棄却域の確率を足します。
数値で見てみましょう。、、、 のとき、検出力は次のとおりです。
| 真の | 50 | 52 | 54 | 56 |
|---|---|---|---|---|
| 0 | 1 | 2 | 3 | |
| 片側検定の検出力 | 0.050 | 0.259 | 0.639 | 0.912 |
| 両側検定の検出力 | 0.050 | 0.170 | 0.516 | 0.851 |
この表から、検出力曲線の読み方が分かります。
【検出力曲線の読み方】
- の点では高さは 。ここが出発点
- が から離れるほど上がり、1に近づく
- 片側検定はS字形で、両側検定は を谷底とする左右対称の形
- 対立仮説の方向が当たっていれば、片側検定のほうが検出力は高い
検出力を決めるのは、 と だけです。つまり、次の4つが検出力を上げます。
【検出力が上がる条件】
- 真のズレ が大きい
- 標本の大きさ が大きい
- ばらつき が小さい
- 有意水準 が大きい
冒頭の「有意差なし」を、この表で考えましょう。真の平均が54でも、片側の検出力は0.639です。つまり、差が本当にあっても、36%の確率で見逃すのです。「有意差なし」は「差がない」ことの証明ではなく、「この検出力では差を確認できなかった」という意味です。
例題:検出力を計算する
対 を、、、有意水準5%で検定します。真の平均が54のときの検出力を求めましょう。
【解き方】
- ズレを標準誤差で測る:
- 棄却の線を動かす:
- 確率を求める:
答えは約0.991です。 の0.639から、4倍の標本で大きく上がりました。
が未知の 検定では、検定統計量は非心t分布に従います。標本分布の記事で学んだように、非心度は同じ です。例えば、、 の片側5%では検出力は約0.617で、 検定の0.639より少し低くなります。
以上が、検出力と検出力曲線についての説明です。
サンプルサイズの決定:必要な人数を先に計算する
続いて、検出力を逆から使う方法を解説します。
サンプルサイズの決定 とは、「これだけの差を、これだけの確率で見つけたい」という要求から、必要な標本の大きさを計算することです。実験の前に行います。
なぜ先に計算するのでしょうか? 顕微鏡を思い浮かべてください。見たいものの大きさに合った倍率がなければ、何も見えません。実験を終えてから「人数が足りなかった」と分かっても、手遅れです。
必要な情報は、次の4つです。
【サンプルサイズの決定に必要な情報】
- 有意水準
- 目標の検出力
- 見つけたい最小の差
- 標準偏差 (過去のデータや予備実験から決める)
片側検定で式を導きましょう。検出力が になるのは、 のときです。 を入れて について解くと、次の式が得られます。
両側検定では、 を に変えます(反対側の棄却域の確率は無視できるほど小さいとします)。
例題:必要な人数を求める
の正規母集団で、 の差を有意水準5%、検出力0.9で見つけたいとします。片側検定と両側検定で、必要な を求めましょう。、、 とします。
【解き方】
- 片側検定:
- 切り上げて
- 両側検定:
- 切り上げて
答えは片側54、両側66です。式の値は小数になるので、必ず切り上げます。
式の形から、大切なことが分かります。 は の2乗に反比例します。見つけたい差を半分にすると、必要な人数は4倍です。顕微鏡の倍率を2倍にするには、4倍の費用がかかるようなものです。
他の場面の式も、同じ考え方で作れます。
【その他のサンプルサイズの式】
- 2群の平均の比較(各群 人、両側):
- 母比率( 対 、片側):
2群の比較の式に2が付くのは、差の分散が だからです。例えば、、、両側5%、検出力0.8()なら、 で、各群99人です。
母比率の例として、 を と区別したいとします。片側5%、検出力0.9なら、 で、211人です。比率の場合は、 の分散と の分散が違うので、2つの標準偏差を使い分ける点に注意します。
試験のポイント: の式は覚えるより導けるようにしましょう。「」の1行から出ます。
以上が、サンプルサイズの決定についての解説です。
多重比較:検定を繰り返す落とし穴
最後に、検定を何度も行うときの問題を見ていきましょう。
くじを1回だけ引いて当たる確率が5%でも、20回引けば、どれかが当たる確率はぐっと上がりますよね。検定も同じです。差のない項目を20個検定すれば、どれかが偶然「有意」になるのは、ふしぎなことではありません。
複数の検定を同時に行うことを 多重比較 と呼びます。互いに独立な 個の検定をすべて有意水準 で行うとき、1つ以上で第一種の過誤が起きる確率は、次のようになります。
この確率を ファミリーワイズエラー率(FWER)と呼びます。 で計算すると、次のとおりです。
| 検定の数 | 1 | 5 | 10 | 20 |
|---|---|---|---|---|
| FWER | 0.05 | 0.226 | 0.401 | 0.642 |
20回検定すれば、差がなくても64%の確率で何かが「発見」されます。多重比較の手法は、このFWERを 以下に抑えるためのものです。
1つずつ見ていきましょう。
1. ボンフェローニ法
最も単純な方法です。 個の検定の有意水準を、それぞれ にします。
なぜ大丈夫なのでしょうか? 確率の不等式 より、FWERは 以下になるからです。検定どうしの独立性は要りません。ただし、 が大きいと基準が厳しすぎて、検出力が下がります。
2. ホルム法
ボンフェローニ法を改良した方法です。p値を小さい順に と並べます。
【ホルム法の手順】
- を と比べる
- 棄却できたら、 を と比べる
- 同じように、基準をゆるめながら続ける
- 棄却できなかった時点で止め、残りはすべて棄却しない
FWERは同じく 以下で、ボンフェローニ法で棄却できるものは、すべて棄却できます。つまり、ホルム法のほうが検出力は高いです。
3. 分散分析のあとの多重比較
3群以上の平均の比較には、目的に応じた専用の方法があります。
| 方法 | 比べるもの | 使う分布 |
|---|---|---|
| テューキー法 | すべての2群の組 | スチューデント化された範囲の分布 |
| ダネット法 | 対照群と他の各群 | 多変量t分布 |
| シェフェ法 | あらゆる対比 | F分布 |
例題:ボンフェローニ法とホルム法
5つの検定のp値が、小さい順に 0.002, 0.011, 0.020, 0.040, 0.300 でした。 で、それぞれの方法で棄却される検定はいくつでしょうか?
【解き方】
- ボンフェローニ法: 基準は 。0.002だけが下回るので1個
- ホルム法: 0.002 ≤ 0.01 で棄却
- 次に 0.011 ≤ 0.0125 で棄却
- 次に 0.020 と を比べると上回るので、ここで止める
答えは、ボンフェローニ法が1個、ホルム法が2個です。補正をしなければ4個が「有意」になるところでした。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 遺伝子解析のように検定が数千もある場面では、FWERでは厳しすぎます。そこで、棄却したものの中の誤りの割合の期待値(FDR)を抑える、ベンジャミニ・ホッホベルク法などが使われます。上の例題の なら、この方法で4個が棄却されます。
以上が、多重比較についての解説です。
細かい手順を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「有意差なしは差なしではない」「人数は実験の前に計算する」「検定を繰り返すなら基準を厳しくする」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、検定の性能をどう測り、どう設計するかについて紹介しました。検定は「有意か、有意でないか」を読むだけの道具ではありません。誤報の率と見逃しの率を先に決めて、それに見合う人数を用意するところから始まります。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 第一種の過誤は火災報知器の誤報、第二種の過誤は見逃し。検定は誤報の率を に抑える。
- p値は のもとでのデータの珍しさで、 が正しい確率ではない。
- 検出力は差を見つける確率で、 で決まる。検出力曲線は から始まる。
- 必要な標本の大きさは で、差を半分にすると4倍になる。
- 検定を繰り返すとFWERが膨らむ。ボンフェローニ法やホルム法で基準を厳しくする。
キーワードのおさらい
- 仮説: 母数についての主張。帰無仮説と対立仮説を立てる
- 検定統計量: 判断に使う統計量
- p値: のもとで、観測値かそれより極端な値が出る確率
- 棄却域: を棄却する検定統計量の値の範囲
- 第一種の過誤: が真なのに棄却する誤り
- 第二種の過誤: が偽なのに棄却しない誤り
- 検出力(検定力): が真のときに を棄却する確率
- 検出力曲線: 真の母数と棄却する確率の関係を表す曲線
- サンプルサイズの決定: 有意水準、検出力、差、ばらつきから必要な を求めること
- 多重比較: 複数の検定を同時に行い、全体の第一種の過誤を抑える方法
さて、今回は検定の性能を測りました。では、同じ有意水準の検定の中で、検出力が最も高い検定はどうすれば作れるのでしょうか?
次回は、最も強力な検定の作り方である「ネイマン・ピアソンの基本定理」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。